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酒は「そのまま」飲みたい?
 私たちは酒をさまざまなスタイルで飲んでいるが、大きく分類すれば、そのまま酒を飲むケースと何かを酒に加えて飲むケースに分かれる。日本酒、ワイン、ビールに代表される醸造酒は、一般的にほとんどがそのまま(厳密に言えばアルコール度数がそのままの状態)で飲まれる。一方、アルコール度数の高い蒸留酒は、「何か(SOMETHING)」を加えて飲まれることが多い。代表的なSOMETHINGは、水、氷(ロック)、ジュース、お茶、そして酒(リキュール)など。具体的にあげれば、焼酎のお湯割り、ウイスキーのロックや水割り、カクテル、チューハイなどで、広く日常的に楽しまれている。
 酒をそのままの状態で、好きな時に好きな場所で楽しむことができるようになったのは、殺菌や冷凍の技術が発達し、保存技術が完成した近代を迎えてのことである。それ以前の酒(特に醸造酒)は醸造されたその場で飲むことがベストであり、時間がたてばSOMETH-INGを加えて味の調整をしなければ、おいしく飲むことはできなかった。醸造技術自体が未熟であった近代以前は、古代ローマの時代に味のバランスをとるためにワインに海水を加えたり、古代エジプトではビールに蜂蜜を加えていた。技術的問題から酒にSOMETHIN-Gを加えざるを得なかったのである。
 その意味で、ヨーロッパ中世での蒸留酒の登場は画期的であった。飲めなくなった醸造酒が、蒸留されることで再び飲めるようになったからである。しかも高いアルコール度数によって薬理効果もある一方で保存しやすく、少量で「酔い」を楽しむことができた。
 しかし、酒が貴重であった近代以前には、醸造酒、蒸留酒によらず、多くの飲み手にとって、「そのまま」で飲み、酔うことが最良であった。時が経ち飲みにくくなった酒には、保存効果を延ばすため、あるいは飲みやすくするためにSOMETHINGを加えるという次善の選択を繰り返してきたのであろう。
 そして、こうした歴史のなかで、酒を「そのまま」で飲むことが主であり「酒+SOMETHING」は従という「ストレート絶対主義」や、どうせ飲むならば、何も加えないものがベストという「純粋至上主義」とでもいうような嗜好が、徐々に醸成されていったのではないかと推測される。

「ブレンド」同種混合の技術
 「酒+SOMETHING」を表現する言葉として、代表的なのは「割る」「混ぜる(MIXする)」「調合する」「ブレンドする」「合わせる」という言葉であろう。そしてこれらの言葉の表現するところを分類することで、「酒+SOMETHING」の領域を明らかにすることができる。
 まず、「酒+SOMETHING」における酒のとらえ方に注目してみよう。それは酒を半完成品としてとらえる場合と酒を完成品(商品)してとらえる場合に分かれる。前者では、ブレンデッドウイスキーなどの蒸留酒が代表例である。それは、何種類かの樽に貯蔵されたウイスキー原酒を「ブレンドする」ことで、多くの飲み手に好まれる安定した味わいに仕上げていくことを意味する。ウイスキー会社のトップブレンダー(ブレンドぐあいの最終決定者)が会社のトップであることからもわかるように、「ブレンド」は社運がかかった重要なポジショニングである。つまり「ブレンド」は、めざすべきゴールを持った、プロあるいは専門家の領域の言葉であり、技術ともいえるものである。
 同様に「調合」もまた、ひとつの完成品に向けてのプロセスにおける技術ではないかと考える。香水の世界では調香師というプロが、あるひとつのテーマに向けて香りの素材を調合してつくりあげていく。たとえば、イッセイミヤケの香水、「ロード・イッセイ」のキーワードはトランスペアレント、「水のようでありながら水ではない香水」というものであった。さらには、薬やスパイスの調合や合わせ味噌、コーヒーのブレンドなども、ひとつのテーマやイメージに向けて、何かを加えて組み合わせることで、完成品をつくりあげていく事例である。
 「模造洋酒」という酒のカテゴリーが明治から大正期にかけて隆盛を誇った。西洋から輸入されたウイスキーやワインが一般の飲み手にとって入手が困難だった当時、アルコールと着色料や香料、ベースとなる本物の洋酒などを調合して、ワインらしいワインやウイスキーらしいウイスキーを商品化していった。比較的安価であったので、次善の選択とはいえ多くの飲み手に支持された。米を原料とせずに、日本酒を科学的に合成する、合成清酒なども戦前さかんに研究されたが、その発想と通じている。
 さらに「ブレンド」や「調合」には、同じ種類の素材が組み合わされている点も重要な特徴である。ブレンデッドウイスキーならば、数種のウイスキー原酒がブレンドされ、香水の場合も数種の香りの素材の組み合わせである。合わせ味噌も同様な発想と考えられる。

「割る」蒸留酒を飲みやすく
 後者の酒を完成品(商品)として位置づける場合を検討してみよう。ここでは「割る」あるいは「混ぜる(MIX)」という行為に代表される。「割る」は、アルコール度数をストレートの状態よりも低くすることであり、多くの場合、蒸留酒の高いアルコール度数を下げるためにSOMETHINGを加えることである。
 日本でのウイスキーの爆発的な消費の拡大は、高度経済成長期における、欧米に追いつけ追い越せという時代の気分が背景にあるが、水割りでウイスキーが飲まれることが、ビギナーにとって飲みやすかったという要因も見逃せない。さらには当時の日本の「水」が水道水でさえ「飲み水」として意識されており、日常的に水を加えたものを飲むことに抵抗感がなかったことも要因にあげられる。
 アルコール度数を下げて飲みやすくするためだったので、「割る」場合のSOMETHINGは、水や炭酸水のようなベースの酒の味わいをそこねないものが選ばれた。しかしながら、現代の焼酎のウーロン割りや緑茶割りのように、甲類焼酎本来の特徴(甲類焼酎は無色透明でフレーバーや味わいにくせがない)がゆえに、SOMETHINGの方が飲み物の味の骨格を決める場合も増えてきている。

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