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パリにはある「大人の場所」
 パリに20年ぶりに年間を通じて住んでみて、再発見をしたという思いがあった。それは、「大人」(45歳以上)の来る場所には、20代の若い男女はほとんど来ないということである。日本では、身の程を弁えない未熟な若者が大きな顔をしてどこでも徘徊しているが、パリでは「大人」が尊重されているし、大人が自分たちの「大人の場所」をしっかり確保している。
 例えば、1940年代にはヘミングウエーもよく来ていた「ラ・クローズリ・デ・リラ」というバー・レストラン・ブラスリーを兼ねた店が左岸にある(La Closerie des Lilas,171、Bld. du Montparnasse,6区)。サン・ミシェル通りをセーネ河岸から天文台の方に登って、ルクサンブルグ公園を通り過ぎる。もう少し行くと、モンパルナス大通りと交差するところに、ポール・ロワイヤル駅が左側にある。その反対側の右側に蔦に包まれた緑色の角の建物がある。そこがリラである。この店はまずバーで有名である。カウンター席の前やテーブルにはヘミングウエーやコクトーなどの有名人が座っていたことを明示する金属製の小さいプラカードが取り付けてある。そこに座って往時を偲びながらピアノの生演奏を楽しんでもいいし、シャンパンやウイスキー、ジントニックなどのアペリティフを飲んで、恋人や友人と談笑しながら食事を待っても良い。そして席が空いたところで、食事ができるブラスリーやレストランに移動するという具合である。
 ブラスリーでは、タルタル・ステーキとポム・フリット(フライド・ポテト)のお皿が名物である。多くのお客がこのタルタルを注文する。ウエイターが客のすぐ側で味付けをするのも、ちょっとした見世物になっている。その生の牛肉と玉ねぎ、卵の黄身、ソースなどの味付けが絶妙なのと、ポテトがやけに美味しい。人が22時ごろからはひっきりなしにやってきて、連日夜中の2時ごろまで賑わっている。寒くなると、ブロンなどの生ガキやラングスティーン(あがさ海老)などの海産物も前菜として取ることができる。たまたま、現在のこの店のディレクターが1980年代に繁盛した三ツ星レストラン・ロブションのメートル・ドテルをしていた旧知のジャン・ジャックだったこともあって、昼・夜を問わず通い詰めた時期があった。顔が利くと、すぐ席が確保できるからでもある。
 しかし、昼・夜問わず、何時行っても平均年齢が55〜60歳くらいの、常連が半分、一見の客が半分という割合は変わらなかった。昼で、女性2人で食事をする風景を見ることはあっても、どちらもキャリア・ウーマン風の30代か40代の素敵な女性達の組み合わせだった。たまに中年男性に連れられてくる若い女性とか親父に連れられてきた息子等、若い人の顔もあったが、決して主役ではなくて、大人たちの間で神妙に礼儀正しくしていた。
 これと同様な大人のジャズ・クラブがサンジェルマン・デプレにある。サルトルやシモーヌ・ヴォーヴォワールが通った有名なカフェのLes Deux Magots(レ・ドゥ・マゴー)の斜め後ろに位置するル・ビルブケというジャズ・クラブである(Le Bilbouquet,temple du Jazz,13,rue Saint-Benoit,6区)。内装は黒に統一され、木製のテーブルとビロードのソファーが置いてあって、1950年代の古いパリという雰囲気を保っている。1階と2階はバルコニー形式で食事を取る場所、半地下のように少し階段を下りたところがバーになっていて、その一番奥にピアノが置いてある。そこではマイクやスピーカー、照明装置が備え付けてあって、演奏ができるようになっている。月1回ぐらいの頻度で演奏者は変わるが、夜の22時ごろからピアノ・ドラム・コントラバスにサックスやボーカルの4人組の生演奏が楽しめる。ここでは食事も出来るが、ドリンクだけとって生演奏を聞くこともできる。
 場所柄、アメリカ人観光客も多いが、フランス人のお客が大半を占めている。何時行っても、客は40代から60代の年齢の人々が圧倒的に多い。それぞれが恋人や連れ合い、もしくは友人仲間と来ていて、パリの夜を楽しんでいる。学生風の若者は皆無である。ドリンク1杯が何を頼んでも18ユーロ(約2500円、席料とか入場料というものは無くて、一律ドリンクに含まれる)と割高なことも理由の1つだろうが、そもそもこのような場所には若者は足を踏み入れないという暗黙の鉄則が確立しているように感じられる。

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