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日本酒の国際化

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酒論稿集
日本の酒の国際化
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 日本の食文化を海外に紹介する講演会をヨーロッパやインドネシアで行ったことがあります。日本の食文化について知らない人々に 理解してもらうためには、スライドを見せて講演をしてもそれだけではだめです。作るところを見せて、食べてもらわないと日本食の 紹介にはなりません。友人の腕のいい料理研究家に同行してもらい、現地の市場にある材料で日本料理を作り、聴衆に試食してもらい ました。
 このような仕事でハンガリー、チェコ、スロバキア、ポーランドに行きました。東欧・中央ヨーロッパは日本酒からたぶん一番距離 がある国々です。日本料理を食べてもらう時、私は日本酒とお茶を必ず出しますが、東欧の日本酒は実に悪かった。東欧には日本食の材 料を売る店がありませんから、ウィーンから運ぶか、あるいは大使館からもらうことになります。ところがどの国でも日本酒が実にま ずいんです。日向臭くて、燗をしたり冷やしたのですが、まずい。これは保管の問題でしょう。日本酒をどうやって保管したらよいか という知識が日本食品店や大使館にも多分ないのだと思います。ワインには大変神経質であるにもかかわらず、日本酒に対しては実に 大雑把だという感想を持ちました。

文明の酒
 まず、「文明の酒」と「文化の酒」ということで考えてみたいと思います。文明と文化はとりあえず「世界にはさまざまな文化があ り、文化とはそれぞれに大変個性的で民族の心と密着している。それに対し文明というのは、個別的な文化の上を普遍的におおってい くものだ」というくらいに考えておきます。
 文化の酒というのは、風土とか食事とか、時には宗教にまでかかわりを持つ大変に個別的なものです。ところがいくつかの酒はそれ を生んだ文化を乗り越えて拡がっていくことがあります。そういったものを文明の酒だと考えてみましょう。
 文明の酒として一番普及したのはビールです。近代の世界の文明が西欧文明の影響下のもとに成立したということが、ビールが世界 制覇した大きい原因と思います。また、ビールを運ぶのは水を運ぶようなもので輸送に難があります。一方で原料の麦は世界のいろい ろな所で採れますから、次第にそれぞれの土地でビールを作るようになった。ただし広まったのは下面発酵のビールです。エールとか スタウトとか上面発酵のものはついに世界商品にはなりませんでした。このタイプはイギリスとかアイルランドとか一部の国だけのも ので、西欧の中でも文化の酒としてはあっても、文明の酒にはなっていません。
 ビールに次ぐのはウイスキーだと思います。最近はモルトウイスキーが日本でもてはやされるようになりましたが、なんと言ってもス コッチウイスキーを普及させたのはブレンドの技術です。モルトと連続蒸留法で造るグレーンウイスキーを混ぜると大量生産ができる というわけです。それがブランデーと全然違うところで、ウイスキーが世界商品になり文明の酒化した理由のひとつです。
 連続蒸留法では、原理的にはどこででも同じようにクセがない蒸留酒ができます。酒のクセとは何かというと、これは文化の味だろ うと思います。連続蒸留法の技術ができる前ではウオッカがそうでした。ウオッカの場合はクセを活性炭で濾過して匂いをとってしま う。ウオッカはスラブ文明に乗ったと考えてよいかも知れません。ロシア帝国、それを引き継いだソ連邦、その影響下にある東欧でも ウオッカが大変普及しています。ウオッカはクセがないので、どこでも受け入れられる素地があったわけです。活性炭で処理した、あ るいは連続蒸留法で造った酒というのは個性がない。個性がないから文明の酒としてどこへでも進出できるけれども、文化の方から言 ったらつまらない酒だということになる。つまり、酔っ払うための液体ではあるけれど、文化が欠落している酒です。

文化の酒
 ではワインはどうでしょうか。産地やブドウの種類や気候風土に大変密着した文化の酒の典型ですが、世界中に普及しています。理 由は、フランス料理が一八世紀後半から西欧世界の上流階級の料理であり、外交や政治に密着していたからです。西欧文明の世界への 拡大に西欧文化が作り出したワインが乗っかっていったのです。
 そういった意味で日本酒はどうでしょうか。私は現在の世界の文明イコール西欧文明として捉えてはいません。西欧やアジアといった 地域を乗り越えた地球文明ということで捉えるのが正しいと考えています。しかし、その基礎には西欧文明が一時期世界を席巻したと いうことがあるわけです。現在の地球文明になる前ですから、植民地との関係を見る必要があります。日本が植民地にしていた台湾や 朝鮮半島には日本文明があり、日本酒はある地位を得ました。朝鮮半島では日本が植民地化した時に日本酒の製法や連続蒸留法が入り、 大きな影響を与えました。
 台湾の場合ですと、中華民族は新しいものをなかなか取り入れないところがあり、日本酒そのものは日本の植民地時代に現地の人に は取り入れられませんでした。しかしながら、酒造法は日本の植民地時代に全く変わりました。台湾での中国流の醸造酒や蒸留酒の造り 方に日本の酒造方法が入って、台湾の場合は餅麹から日本式のバラ麹に変ってしまう。今の台湾で造っている紹興酒等には実は日本か ら入った麹の技術を使用することが多い。
 これから日本酒は文明の酒の方向を取るのか、文化の酒の方向を取るのか? 私は文化の酒としての個性が評価されていくのではな いかと思います。個性的で、大量生産でなく手作りの酒がもてはやされる世界になってくるような気がします。それは私の歴史の見方 に関わっております。今まで世界は文明が支配してきました。特に産業革命以降は大量生産が世界の経済、人類の物質的な基礎を築き 上げてきました。しかし二一世紀になったらどうでしょうか。産業社会の論理でやっていくと資源問題としても地球は破産してしまう でしょう。巨大な生産ではなく、むしろ物を少なく消費しながら満足感を得ることになります。そうなってくると人生の中で比重が大 きくなってくるのは、文化とか芸術の問題です。文化や芸術といっても大それたものではなくて、例えば写真を撮ってアルバムを作る とか、俳句を作るとかそういう文化でよろしいんです。いわば文化の時代になってくるだろう。日本酒が文化の酒としての方向が強ま ると思うのは、このように見ているからです。

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