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広告規制と酒類マーケティングの将来
 日本は、飲酒に対して寛容な国であった。販売方法や広告宣伝に対する規制は弱く、未成年飲酒への罰則も実質的には機能していな かった(もちろん未成年飲酒禁止法というものはある)。しかし、社会全体の風潮で、徐々に広告の媒体や表現についての制限が強 まる方向にある。本稿では、広告を中心としたマーケティング政策について、欧米諸国やたばこ業界の実態を踏まえて考えてみたい。

欧米の酒類広告規制の現状
欧米諸国では、ビールやワインなどアルコール度数の低い醸造酒とそれ以外(リキュールなどの混成酒、ハードリカー)を明確に区 別して規制をかけている。もちろんアルコール度数の強さがその根源にあるが、彼らにとってのワインが食事と切り離せないことや、 キリストの血であるという考え、また生水を飲まなかったことなどの影響が大きい。
 図表1に見るように、一般に欧米諸国はワインやビールのテレビCMは認めているが、最近まで、蒸留酒のテレビCMが行 える国はほとんどなかった。例えば、アメリカでは、一九四八年から蒸留酒業界の自主規制でテレビCMは行われていなかった。その ためか、海外からのスポーツ中継を見ると、競技場内は酒類の大きな屋外看板やステッカーが目白押しだった。しかし、フランスは、 一九九一年にタバコ・アルコール排除法を成立させ、全ての酒類をスポーツイベントでの協賛広告から締め出した。このため一九九五 年には、人気の高いラグビー五カ国対抗の国内放映中止という事件が起きている。フランスメーカーの広告看板が、英国の試合会場に 設置され、テレビに映るからであった(ただし海外中継で映る国外の酒類メーカーの看板は黙認)。これはその後、社会問題化して、 海外中継時の処理は、ケースバイケースで処理すると緩和されている。
 また、アメリカではケーブルTV、インターネットという新しいメディアの普及が契機となって新しい動きが出ている。蒸留酒業界 が自主規制していたテレビCMを九六年に解除し、最大手のシーグラムが、テキサスのテレビとラジオでウイスキーの広告を行い波紋 を投げかけた(月刊『酒文化』九七年二月号)。この背景には、ケーブル専門テレビなどの発達により視聴者をある程度セグメントできる ことと、同じアルコール飲料内での不平等な扱いに対する長年の不満があったと考えられる。結局、翌九七年四月には、クリントン大 統領によりメディアでのアルコール広告を控えるように連邦通信委員会に指示が出された。
 また昨夏には、ベックスビールのテレビ広告が連邦取引委員会(FTC)により強制排除された。このスポット広告は、帆走しなが らビールを飲んでいる若者が描かれており、生命の危険につながると判断されたからである。他にも八社の広告内容が法定飲酒年齢未 満の視聴者への影響で審議されるなど、表現についての規制は強くなりつつある。

日本の酒類広告規制の現状
 日本のテレビ広告は、ビール四社とその他大手メーカーでは、平日は午後六時以前、休日は午前中が自粛時間となっていた。また、 広告の最後には「お酒は二〇歳を過ぎてから」などの文言も自主規定によって挿入されていた。九八年五月に、酒類中央七団体(種別の 酒類製造者の業界団体)で全体的な規制について以下の申し合わせがなされた。
・テレビCMの放映時間を原則的に制限する(平日午後六時以前、休日午前中)
 ただし、テレビCMのほとんどを占めるビール四社はそもそもこの時間帯は放映していなかった。地方の中小メーカーにとってプラ イムタイムのスポットCMは、費用の問題や地元局との調整で、簡単には対応できない事情もある(プライムタイムは、全国ネットで の広告が多く、地方局の独自番組・独自のスポンサーはそれ以外に多い)。
・未成年向け番組への提供、スポットの自粛
・未成年向け雑誌への出稿の自粛。
未成年タレント使用の禁止表現については、過度の飲酒を勧めない内容という規定も確認されたが、欧米の厳密な規定に比べると、ルール自体が「原則として」 という言葉に代表されるように厳格ではない。

たばこの広告規制の現状
 酒と立場が似ているのがたばこである。たばこ業界は、九八年四月より個別ブランドの広告を自主規制した。これを受けて日本たば こ(JT)では、直ちにテレビCMからたばこ個別ブランドの訴求、喫煙姿のあるものを一切自粛した。一方で、JTは九七年より、 新聞を中心に展開していた企業広告「あっディライト」を、三月からはテレビでも始めた。この広告は、嫌煙運動の高まりに対して、た ばこが社会と共存していくための喫煙マナーを訴えるメッセージでもある。しかし、喫煙者の立場で見ると、この広告では喫煙意欲が 増加するとは考えにくい。これは、アンチユーザーに対しての広告という極めて特殊なものと考えられる。JTでは、「個別広告を自 粛したのは、未成年喫煙対策であり、今後も再開する予定はない。個別のブランド販促に関しては、新聞や成人向け雑誌での広告を継 続する。街頭での試供品配布は、料飲店など成人しか来ない閉鎖空間や販売店頭など限った場所で行う。また、これからは販売店頭で の販促展開に力を入れたい」(広報部)としている。

海外における新しいマーケティング策
 さて、日本における酒類広告規制が強化された場合、どのような需要啓蒙策がとられるのだろうか。既に厳しい規制がとられている 欧米諸国の事例をもとに考えてみたい。
 欧米で酒類広告規制が特に強まり始めたのは八〇年代後半からである。それ以降に採られた広告以外のマーケティングプランは、概括すると「適正飲酒キャンペーン」「イベン トタイアップ」から始まり、「顧客組織化(マントゥマンマーケティング)」「店頭プロモーション強化」に着地している。
 「適正飲酒キャンペーン」は、古くはシーグラムの「Drink Modesty」が有名であるが、ミラーは九二年に「責任ある飲酒の薦め」と いうキャンペーンを行っている。ここでは、著名なバスケットプレーヤーを起用して「飲む時は考えよ」と訴えている(月刊『酒文化』 九三年二月号)。また、適正飲酒の訴求を社会への企業からのメッセージと捉えると、最近では酒の世界を離れた社会運動への関わり にまで広がっている。バドワイザーによる「野生生物保護支援のための寄付を募るキャンペーン」、クアーズによる「文盲撲滅運動 推進」、ミラーの「脳性麻痺団体への支援活動」などがあがっている。
 「顧客組織化」では、やはりシーグラムとミラーの成功事例が『個人回帰のマーケティング』『マルチメディア時代のマーケティン グ革命』(両書ともラップ/コリンズ著・ダイヤモンド社)で紹介されている。前者は、いくつかの雑誌の読者を対象に始めたプレミ アムウイスキー見込客のデータベース作りである。これをもとにさまざまなプロモーションを行い、効果を上げている。また、ミラー は経営する「ミラーアスレチッククラブ」の会員を組織化して、ニュースレターを送っている。このクラブの新規会員募集をするとそ の地区ではシェアが上がる、という結果が出ている。
 「店頭プロモーション強化」では九〇年代に入りミケロブビールと大リーグ、ブッシュと夏のコンサートなど、タイアップ型のキャ ンペーンが店頭で大々的に展開されて販売量を増やしている。初期のタイアップやスポンサードがイベント会場に限定されたものであ ったのに比べると、より立体的なマーケティング展開を行うようになったとも考えられる。
 このように顧客組織化や店頭からの情報発信を重視するようになったのは、コンピュータ、インターネットの発達によりデータベー ス維持管理コストや通信コストが下がったことと、マス広告の規制が強くなったので、店頭が情報発信拠点として再評価されるように なったからであろう。

日本の酒類広告の今後
日本でも顧客組織化は随分と試みられている。ビール・洋酒メーカーを中心にインターネットや商品添付のはがきなどで集めたモニ ターに対して新製品発売の案内、商品サンプルの自宅送付などが日常的に行われるようになってきている。
 店頭プロモーション強化もますます進められると考えられる。極端に言えば、メーカーの宣伝が制限を受けても、店頭展開手法には 制限を受けないからだ。例えば「何月何日は、酒屋さんへ行こう。面白い発見があります」というメッセージ広告を某社がテレビで流す。 その日に店へ行くと、某社の新製品の一大デモンストレーションが店頭で組まれているなどの方法も出てくるのではなかろうか。
 マス広告の規制が強まると、大型新製品は育成しにくい。酒類マーケットは徐々に縮小するかもしれない。しかし、膨大な予算のか かるマス広告が使えないならば、緻密な販促プランが成否を分ける。店頭を掌握している地域密着型企業がヒット商品を生みやすくな るのかもしれない。従来にない新しい発想のマーケティング策の登場が待たれる。
月刊酒文化 1999年 1月