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photo01 かつて珍重された古酒は、江戸後期期以降の新酒偏重のトレンドの中で、埋もれ、消えかけていた。それが、日本酒の味わいの幅を広げるものとして、近年、注目を集めている。今回は、古酒専門のバー「酒茶論(しゅさろん)」(東京都港区)を取り仕切り、自宅での古酒づくりを提唱している上野伸弘さんに、古酒への期待をお話いただいた。

洋酒の視角だから見えた価値
 古酒に着目したのは、洋酒から酒の世界に入ったということが強く関係しています。私は1979年にホテルニューオータニに入社しまして、最初に料飲課のバーに配属となりました。洋酒ばかりの店で、もちろん日本酒の扱いはありませんでした。
 個人的に日本酒も好きで、酒全体に関心をもっていましたので、仕事で洋酒をより深く知るようになると、日本酒になぜエイジング(長期貯蔵)がないのか不思議に思われてきました。どう考えても日本酒にはエイジングだけがスッポリと抜け落ちています。これだけ豊かな成り立ちの酒であるのにおかしいという違和感です。
 それで自分で勝手に日本酒を長期間寝かせてみました。たまたま手元にあったお酒を、五年くらいほったらかしにしておいたのです。保存の仕方はいい加減なもので、途中で開栓して味見して、また栓をして押入れの隅っこに転がしておくというようなやり方でした。そうしたら洋酒に通じる熟成のおいしさが出てきて、自分としては「日本酒も長く貯蔵すれば、厚みのある味ができるじゃないか」とそれなりに満足することができました。
 けれども友人たちに飲ませてみると、古酒の評判はまったくよくありませんでした。自分はおいしいと思うのですが、既存の日本酒の視角で見てしまうと受け容れられないということなのでしょう。それでニューオータニに入っているフレンチレストラン「トゥールダルジャン」の総支配人とシェフに古酒を試飲してもらってみました。すると「これはいい酒だ。おいしいソースができる」と評価してくれたのです。酒を見るフレームを変えることで、日本酒の新しい魅力を創ることができると確信したできごとでした。そして、彼らに日本酒であることを話すと、返ってきたのは「うちではそれ(和風のもの全般)は使えない」という返事でした。
 こんなことがあって古酒に自信がもてまして、それからは、古くなった酒を探して片っぱしから飲んでいきます。仏事などでいただいたお酒が、そのまま忘れられて何年も経ったとか、そんな酒ばかりです。もとは上等な酒ではありませんが、なかには驚くほどよくなっていたり、びっくりするような変化をしているものがあったりして、ますます古酒の魅力にはまっていきました。

バランスが悪いから合う料理が決まる
 それでも当時は日本酒愛好家のひとりで、酒蔵との接点はありませんでしたから個人の遊びの範囲にとどまっていました。それが変わるのは、醸造資材を酒蔵に販売する商売を始めてからです。体調を崩してホテルを退社し、友人の人脈や常連だった地酒専門店さんとのつながりを生かして、各地の蔵元に醸造や製品化の工程で使うさまざまな資材を販売し始めたのです。細々とでしたが事業は軌道に乗り、次第にどうしたら日本酒がもっとよくなるかと、ホテル時代から感じていたことをお得意先の蔵元たちにぶつけ、さまざまな議論をするようになりました。
 ちょうどその頃、長期熟成酒研究会が一般にも門戸を開きました。この会は蔵元有志が集まって、日本酒の長期貯蔵を研究しようと情報交換をする集まりでした。どのような酒が長期の貯蔵に向くのかということや、貯蔵条件による熟成の違いなど、製造技術面での交流を中心に活動を進めていました。それが、一般の人への古酒の普及を進めようと、広く参加を募ったのです。
 即座に飛び込んでいくと、お世辞にも完成度の高いお酒ばかりではありませんでした。けれど、当時市場に出ていたのは画一的な酒ばかりだったので、バランスの悪い酒のおもしろさは新鮮でした。バランスが悪いからこそ、料理にぴったり合うものと合わないものが出てくるのだと痛感したのです。料理との相性の幅広さは、日本酒の特長として言われますが、それは今の製品が総じてバランスがよいことを優先してきたからなのでしょう。

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