時代や文化とリンクしたお酒に関する旬の情報サイト
酒文化研究所ホームページ
会社概要酒文化の会メールマガジンContact UsTOP
イベント情報酒と文化コラム酒文研おすすめのお店酒文化論稿集酒飲みのミカタ特ダネ
海外の酒めぐり日本各地の酒文化見学できる工場・ミュージアム酒のデータボックスアジア酒街道を行くリンク集

 
<論稿集トップへ

30代を迎える団塊Jr世代の酒

シニアにさしかかる団塊世代の酒

日本酒の味の客観的評価

酒マニアな人々への道程

酒米生産の現状と課題

おいしいカクテルをお出しするために

日本の酒税が歩んできた道

シングル化がもたらす飲酒風景

サトウキビから生まれた魅惑のお酒

変わる食卓・消えた晩酌

三井物産の清酒界進出

幕末サムライ使節の洋食・酒体験

日本酒を自家貯蔵する愉しみ

お酒で身体はどう変わるのか

「おつまみ」の日米交流
  意外史(3)あられ


「おつまみ」の日米交流
  意外史(2)枝豆


「おつまみ」の日米交流
  意外史(1)ポテトチップ


古き一升びんをたずねて
酒論稿集
その他
日本酒の味の客観的評価
 「この日本酒、ワインのようなお酒」といった言葉を本で見たり、懇親会などの席で聞いたりする。実際、透き通った薄い赤色の日本酒もある。日本酒とワインはそんなに近い関係にあるのだろうか? 常識的には、そのようなことはないはずだ。それでは、なぜわざわざ、ワインのような、と思うのだろうか? 誰もリンゴとミカンを比較したりしない。ミカンのようなリンゴなどとは言わない。そこで、本稿では、ワインのような日本酒と思う、この想起の根底に横たわっている思想、経験について、科学的考察を行ってみたい。  さて、酒の味や香りを誰にでも分かる形で、数値化できないであろうか? 目で見える形で表せないであろうか? そうすれば、先の疑問にも答えることができるのではないだろうか。それを可能にするのが、味を測る味覚センサーである。
 ここで、まず味の計測の歴史について簡単に紹介しよう。その歴史は1980年代にさかのぼる。脂質分子を成膜した人工の脂質膜が、異なる味物質に異なる電気応答をすることが発見されたのが、1985年である。脂質はセッケンの親戚である。脂質膜とは、脂質を膜の形に集めた(成膜化)ものと思って頂ければよい。私たちの舌の細胞を囲む生体膜も脂質(とタンパク質)からなる膜だ。
 1990年には、各味質に異なる応答を示す脂質膜センサーを複数種そろえ、その電圧出力から味質、味強度を判定するという仕組みのセンサー、つまりマルチチャンネル味覚センサーの基本原理が、九州大学とアンリツ(株)から特許出願された。その後、味覚センサーは10年以上もの長きにわたり、九州大学とアンリツ(株)とで共同開発されることになる。その結果、味認識装置SA401、 SA402が市販され、本装置は現在、食品や医薬品関係の会社、研究所、公設の試験場、大学で使われている。

味覚センサー
味覚センサー 味覚センサーは脂質と高分子をブレンドした人工の膜を味物質の受容部分とし、この複数の脂質膜からなる電位出力応答パターンから味を数値化する。脂質膜電極は塩化ビニルの中空棒に塩化カリウム溶液と銀線を入れ、その孔に脂質/高分子膜を貼りつけたものである。特性の異なる脂質/高分子膜を8つ準備し、それらの膜と種々の化学物質との相互作用を電気的に取り出す。人の場合、舌に味細胞があり、それを被う生体膜に化学物質が結合することで、電気が発生し、そのシグナルが脳へ行き、味を判定する。人の味神経は数千本、味覚センサーでは8本であり、人は数千本からのシグナルパターンで、センサーはこの8本からのシグナルパターンで、味を判定することになる。
 味覚センサーは人が違う味と感じる化学物質に対しては、全く違うパターンを示し、同じ味と感じる物質に対しては似たようなパターンを示す。味は5つからなり、酸味、甘味、塩味、苦味、そしてうま味である。味覚センサーは、塩味をもつ塩化ナトリウムと塩化カリウムでは似たパターンを示し、うま味を生じるグルタミン酸ナトリウム(昆布のうま味)、イノシン酸ナトリウム(鰹節のうま味)、グアニル酸ナトリウム(椎茸のうま味)でも同様に似たパターンを出す。もちろん、塩味の塩化ナトリウムとうま味のグルタミン酸ナトリウムに対するパターンは全く異なる。つまり、味覚センサーは個々の味物質ではなく味そのものに応答することがわかる。まさしく「味を測る」センサーなのだ。

醸造管理センサー
 次に、味覚センサーの日本酒の醸造管理用センサーとしての応用を検討した。その結果、約1カ月間の醸造過程において、滴定酸度は単調に増加し、センサー出力と高い相関(0.99)を示した。日本酒の場合、滴定酸度は10ミリリットルの酒をpH 7.2まで上昇させるのに要した100ミリモルの水酸化ナトリウムの量で表す。なお、相関とは、2つの量が近い程度を表す指標で、相関が1だと、2つは非常に関係が深い、0(ゼロ)だと関係なし、ということになる。
 滴定酸度はpHとは直接には関係ない。酒に含まれる成分(アミノ酸、有機酸など)による緩衝効果があるため、必ずしも初期pHが低い(つまり、酸性)からといって、滴定酸度が高いとは限らない。アミノ酸や有機酸があると、水酸化ナトリウムを入れても、pHはあまり変化しない。滴定酸度は、日本酒製造にあたり、醸造管理、ブレンド、成分指標としてきわめて重要な量である。つまり、味覚センサーを用いることで、酸度を測ることができ、醸造管理工程のモニタリングができる可能性があるのだ。
 また長野県の品評会に出品された大吟醸酒40本を味覚センサーで測定し、主成分分析を行ったところ、きれいさ(横軸)と味の濃淡(縦軸)でそれぞれの味の特徴を表すことができた。この研究は、長野県食品工業試験場の蟻川幸彦博士によりなされたものである。

<<前頁へ      次頁へ>>