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ラインの石器と
  ひげ徳利


日本酒のうつわ No.1
 
日本酒のうつわ No.2
 
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酒論稿集
酒器論稿
日本酒のうつわ No.2
 西洋料理も中華料理も、文様などの些細な 部分に違いはあっても、概ね同じような形の器を使用するが、和食の場合は、料理と器との取り合わせに最大の神経を使い、味覚や色 合いによって、あるいは季節によって、一品一品うつわを変えて盛りつける。これはまさに、日本の食文化の際立った特徴の一つとい えるが、日本酒だって同じことであって、酒により気分によって、盃を取り合わせる。
ここで取り上げた、高めの高台を持つ酒盃は、かつては、武人達でもあったろうか、これを馬上で用いたところから馬上盃 (ばじょうはい)という。高杯と書く人もいるが、これは土篇の高坏(たかつき:食べ物を盛る脚付きの台)を、木篇の高杯に誤用してしまったものだろう。 馬上盃は、盃が机上からやや立ちあがっているので、どこか高揚した軽やかな気分があって、春来たりて蕾の膨らむような、そんな 華やいだ時分に好んで使用する。
この形は、日本の縄文土器や弥生土器、須恵器、古伊万里にも、朝鮮の高麗青磁にも、中国あるいは欧米などの、どの国の どの時代にもよく見られるものである。
先年、青森県八戸市是川にある縄文晩期の遺跡を訪ずれ、縄文人の歓喜の躍動そのもののような、自由闊達な線刻で表現されたこの 馬上盃?を手にして、これで一献やってみたいとしきりに思ったものである。
その、八戸の長老S氏は、八〇を過ぎてもまだ背筋のすっと通ったかくしゃくたる人物で、酒席ではいつも「いや、まんずまんず」 と、誰にともなく盃を目前まで挙げ、一口飲み干すごとに、再び、まんずまんずというがごとくに血色のいい顔を頷かせる。
その、泰然自若たる動作に、これこそが馬上盃にふさわしい飲み方かと、縄文馬上盃とS氏とを重ね合わせて、つい見とれてしまう。
という訳で、我が馬上盃作法? も次のような次第である。馬上盃は、酒の肴の器の向こうに置く。そして、正座し背筋を伸ばして 盃に手を伸ばす。その一連の所作こそが馬上盃の気分なのであって、なぜか酒の格が上がるようでうまく飲める。
酒は、誰かのために注ぐが如くに、腕をのばし並々と注ぐ。そして、S氏の如く何かに献杯するかのように、盃を目の高さに掲げ一 気に飲み干すのである。この次第がまた、春の開放的な気分にピッタリきて、つい酒が進 んでしまうのも心地よい。そう、馬上盃は飲むというより一献と表現した方がふさわしい。
馬上盃といっても、ただ高台が高いというだけではなくて、酒の感じがこないといけない。ただの器と盃とのその境界は簡単には説 明できるものでもないが、あえて言うならば、これで酒を飲んでみたい! と直感できるかどうかだろうか。
何かの本に、日本酒の糖分の差異は、わずか二?四%の間のことだと出ていたが、甘口だの辛口だのなんだのと、その、わずかな数 値の差の中で、なお深い味わいを感じとり蘊蓄を傾けるのと同じ程のほんの微細な差異が、馬上盃と凡器とを分けるのである。

月刊酒文化 2004年 6月

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