時代や文化とリンクしたお酒に関する旬の情報サイト
酒文化研究所ホームページ
会社概要酒文化の会メールマガジンContact UsTOP
イベント情報酒と文化コラム酒文研おすすめのお店酒文化論稿集酒飲みのミカタ特ダネ
海外の酒めぐり日本各地の酒文化見学できる工場・ミュージアム酒のデータボックスアジア酒街道を行くリンク集

 
<論稿集トップへ

銀の酒器

イギリス近世の酒器

古代ギリシアの酒器

ラインの石器と
  ひげ徳利


日本酒のうつわ No.1
 
日本酒のうつわ No.2
 
日本酒のうつわ No.3
 
日本酒のうつわ No.4

日本酒のうつわ No.5

日本酒のうつわ No.6

日本酒のうつわ No.7
 
酒論稿集
酒器論稿
日本酒のうつわ No.4
 蒸し暑かった残暑もようやく過ぎて、朝晩が肌寒く感じる季節になると、夏の間使っていた平盃を、カビの生えないよう陽に当てて しまい込む。清冽なる夏の酒から、秋の豊醇な古酒に飲み変わるこの時期になると、いよいよ筒盃(つつはい)の出番である。
 まだ薄明かりの残る、夕暮れ時。庭に面した障子戸を半開きに、独酌で飲り始めてふと、辺りが薄暗くなっているのに気がつく。そし て、何処からか虫のすだく音が…といった、いかにも秋の季節の酒らしい情景の、そういう気分にはぐい呑みがぴったりくる。
 ぐい呑みといえば、普通は深めの盃を指すが、垂直に立ち上がった筒形を、特に立ちぐい呑みと称して珍重する。酒があまり飲めな い酒器好きという人も、この立ぐい呑みにだけは眼の色をかえる。酒好きの、なかでも常温にこだわり、ぐい呑みにもこだわり、その 上、筒の形にもこだわるとなれば、これはもうかなりの通といっていい。
 筒は、口径と高さが同寸ぐらいがよくて、大振りで、やや厚手の小深いほうが好まれ、手取りのやや重めのほうが飲んで旨いようだ。 そして、端正な形よりはずんぐり野趣に富んだほうが、秋の酒には一番似合う。
 グイッと掴んで飲むからとか、ぐいぐい飲るからと、ぐい呑みの由来は諸説あるが、もし、目の前に古唐津の立ぐい呑みでも現れる と、もう、そんな事はどうでもよくなって、只ただ目を細め賞眼し、賞玩するのみである。
 筒盃のなかの丈の短いのを、半筒と呼んでいるが、茶碗では、志野とか楽とか瀬戸黒とかによく見られる形でも、酒器として使えそ うなのはなかなか無いものだ。
 筒は、目一杯注いでそうっと口まで運ぶその感じもよし、半分程注いで口中に一気に抛り込むのも、豪快でいい。筒型の深向付に珍 味をほんのすこし入れ、覗き込むように箸でつまむ、あれと同じ感じが、筒ぐい呑みにはあって、酒を掌に握り込むようにして、見込 みの残り酒をのぞき込みつつ飲み干す。
 永年の使用による酒の滲みや潤いが、釉面に顕われるのを「変化した」「育った」といって、残った酒を掌にすくいとっては、立ち ぐい呑の胴に撫でつけ、盃の育つのを楽しみながら盃を傾けるのも、酒器にこだわる酒好きの醍醐味だろう。そう、筒盃は一人静かに 手酌で飲るのが、最も絵になるし、どこか、男の大人の酒といった気分がある。
 酒好きだった野村万之丞さんと、もう一度、酌み交わしたかったとしきりに想いつつ、このシリイズの筆を措く。

月刊酒文化 2004年 12月

<<前頁へ      次頁へ>>