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酒論稿集
酒器論稿
日本酒のうつわ No.5
 「その弥生の器を見せて下さい」「やはり弥生に入るのかなあ」年老いた店主は、そうつぶやきながらケースから取り出した。火色や黒いコゲを見ただけで、弥生土器と早合点してしまったのだが、そういわれてよく見るとまだ縄文の雰囲気の方が色濃く残っている。弥生に入ると、口づくりなどがもう少しピリッと鋭くなる。これは、縄文から弥生に時代が移る過渡期の、縄文最晩期の作なのだろうと見当つけた。縄文土器は、野積みといって地面に浅い凹みをつくって、底に薪を敷き並べる。その上に乾燥させた土器を置き、さらに、薪を積みかぶせて焼き上げる。直接炎が当る部分には火色が、燃えつきた炭に触れる部分は、炭素が付着して黒い文様が現れる。
 この縄文盃、高台のない丸底なのだが、まだ作りたての、粘土が柔らかいうちにトンと板の上にでも置いたらしく、案外すわりがいい。それに、形のバランスもいいし底部が厚いので、起き上がり小法師の様にどんなに揺らしてもすぐ元に戻る。コロッと丸い器形の口元を、自在で強い線刻が巡り、内から膨らむが如き緊張感を一層引き立てる。その上、やや重めの手取りがすこぶるいい。手に持って軽いと感じるような盃では、酒そのものも、軽くてコクがないように感じ、一向に酒を飲んだ気分にならないものだ。
「土器ですよ、しかも発掘。酒器になんて土臭くってムリ」という店主。それでも、なんとかこれで一杯やってみたい一心で、水に浸けたり煮沸したり、やれる事は全てやってみたが、土臭は完全にはとり切れなかった。
 早速、冷やした日本酒を並々と注ぎ、始めの一口を飲んでみる。低火度焼成で吸水性が強いからなのだろう、唇がピタッと器の口縁に吸いつくところが妙であった。やや土臭はするが、これとても、縄文人と三〇〇〇年の時代を共有し、ひざ突き合わせて飲んでるんだと夢想すれば、これはこれで野趣横溢たる酒になる。暫く飲っていると、かなり酒を吸い込んで、外側がしっとり湿ってくる。「こいつ、余程酒好きとみえる」などとつぶやきつつ、口中に酒をほうり込む。
 酔うにつれ、盃をコマのように回すのがクセになってしまった。ロクロも使わないのに中心がとれ、面白いほどよく回るのを目にすると、縄文人の確かな技術が実感できる。そして、決まった飲み口がこっちを向いて止まったら、もう一杯注ぎ足す事にしているが、なに、こっちに向くまで何回でも回すのだから、ついつい深酒になってしまう。
 もうひとつ、縄文小原流というのがある。一杯目は溢れんばかりに注ぐ。それを、ようこそ、ようこそと口の方から出迎える。一回に全て飲み干さずに半分ほど残し、又、満々と注ぎ足す。常に満杯なので、気宇壮大な気分で飲める。どこで止めるかがむずかしいが、まあ、酒の肴のきれたのをしおに、残りの酒を名残り惜し気に飲み干す事にしている。
 いつか、いろりの前にでも持ち出して、縄文人もそうであったろう燃え盛る炎に火照りつつ、一晩中飲み明かしてみたいものだ。

月刊酒文化 2005年 3月

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