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南国土佐に「酒の国」あり
スコッチウイスキーの蒸溜所は世界中から人が集まる観光名所になっています。ボルドーのワイナリーもそうです。日本でも博物館やレストランを併設したり、工場見学を積極的に受け入れたりして、観光拠点になっている酒造工場は少なくありません。
今回は酒文化を観光資源として見た時、どのような広がりや新しい接点があるのかを考えます。


関心高まる観光振興
観光振興への意欲が高まっています。昨年は「海外からの観光客を増やそう」と、観光立国が宣言されました。日本商工会議所が全国各地の商工会議所にアンケート調査をおこなったところ、七割が「今後は観光産業を重視する」と回答しています。
製造業中心の日本という国では、サービス業や農林水産業を下に見る風潮がありました。
日本経済新聞の「私の履歴書」を担当した流通業のトップの多くが、「小売りは雑魚だ」などと嘲られた経験を披露します。
さらに観光産業には不信感が根強かったと感じます。旅行者の「旅の恥はかき捨て」という態度と、観光業者の「一見さんだから適当に」という関係から生まれる不信感です。
それが様変わりして、日本中が観光に力を注ぐと言います。観光は、農林水産業や鉱工業をサービス産業化させる取り組みという見方もできるでしょう。そして「旅行者・観光業者・地域住民の三方一両得の観光産業」が強調されます。観光客に何度も足を運んでもらえるように観光業者や地域住民が魅力づくりに励むことで、三者の満足度がそれぞれにアップする好循環をつくるというわけです。
観光振興には大きく三つのメリットがあると言われます。第一は経済効果です。観光客の誘致が、宿泊・飲食などの需要を増やし雇用を生み、業者や地域を経済的に潤します。第二は観光客を呼ぶために地域自慢の種づくりが盛んになり、住民が地域に誇りを持つようになるという効果です。そして第三が受け入れ側の意識改革です。来訪者をもてなすために、美観や礼儀作法への関心が高まるというのです。

日本の観光文化は未成熟
しかし、観光振興を順調に進められそうかと言えば、不安は山ほどあります。この国は、かつてリゾート法を成立させ、地方にリゾートホテルやゴルフ場が建設ラッシュとなりましたが、うまくいったのはごく一部です。ふるさと創生を合言葉に、各地に一億円をばら撒いたあげくには、金の延べ棒を陳列してみたり、やみくもに温泉を掘ってみたりと、場当たり的な観光振興が相次ぎました。
観光活性化を円滑に進めるには何が必要なのでしょうか。旅の文化研究所の神崎宣武所長は次のように言います。
「ひとことで言えば、日本の観光文化が未熟なのです。魅力的な観光は庶民が創りだすものです。国とか企業とか、決して、どこかが主導するものではありません。
江戸期は、日本で観光文化がもっとも成熟した時代です。自由な移動は制度的にできなかったと思われていますが、お伊勢参りに代表されるように、旅がそれなりにできる仕掛けがありました。それは庶民がつくりあげたもので、建前と本音、表と裏という日本伝統の『対』の思想を上手に使っています。
最近は団体旅行を否定する傾向が強いですが、子供や老人のような弱者が安全に旅をするための優れた手法ということを理解しない、一面的な評価ですね。これに限らず、白黒はっきりさせたがり過ぎるように思います。
スイスは、成熟した観光文化を育んでいる国です。国をあげて観光に本気で取り組んでいる。たとえば、高速な移動手段はつくりません。観光にとってさほど意味がないからです。高地での牧畜は国際的な競争力はありませんが、止めようとは言いません。牧畜がなければ観光客は来ないとわかっているからです。牧畜を維持して景観を保全するために、高度によって原乳の価格を調整したりもしています。
日本の観光は、世界規模の観光に耐える資源を持っているかどうかと考え直す必要があります。乱暴に言えば、日本の観光は一泊二日を念頭においてきました。一カ所で連泊に耐えるのは、東京、京都、天気のいい時の沖縄、雪がある時の札幌だけでしょう。
歴史、風土、文化などを組み合わせて、地域が各々に『遠野物語』を新たに紡ぐことが欠かせません。その地域が魅力的に読み解かれる物語をつくるのです。観光資源としての酒文化は、地域のなかでの酒物語をどう語るかということではないでしょうか。酒がそれだけでたくさんの人々を引きつける観光資源になるケースは、非常に希なことです」

「本気」で「物語」づくり
さて、酒文化の観光資源化です。神崎氏のご意見のなかの、次の二点に着目します。ひとつは、本気で観光振興に取り組まなければ お客様は足を運ばないという指摘です。もうひとつは、複数のものを組み合わせて独自のストーリーを紡ぎ出すという指摘です。
国内の酒類消費は、これからは量的な拡大はまず見込めません。何かが増えれば何かが減るというゼロサム競争です。そのなかで酒類関連企業が新たな市場を構想する時、観光は本気で取り組むだけの値打ちがある選択肢です。観光客への商品の販売、おいしい酒と料理を楽しむ場の提供、心地よい体験をしていただいたことによるブランド(企業)イメージの向上、さらに酒文化をテーマにした観光開発により不動産価値を高める展開など、お客様との従来にない接点が開発できるだけでなく、大いに期待できるビジネスチャンスが生まれます。
一方で、「観光バスの団体客を受け入れるとトイレ休憩の場にされてしまう」などと難色を示す意見があります。けれども、これはトイレ休憩程度の魅力しかないからと捉えるべきでしょう。本気で魅力的な観光拠点化に取り組むことと、望ましい集客が可能な観光拠点になることのどちらが先か考えれば、前者が先であることは自明です。
ここから「物語づくり」を念頭において、観光振興に取り組む事例を見ていきましょう。最初にご紹介するのは、まちづくりの一環として酒・食が中核をになっているものです。
酒蔵を歩いて巡れる町―京都・伏見
濠川を遊覧する十石舟伏見は京都市の南部に位置し、京都駅から電車で10分ほどの交通至便なところです。
歴史は古く『万葉集』や『日本書紀』にも登場し、豊臣秀吉が城を築き、交通の要衝としてあるいは宿場町として長く栄えました。寺田屋事件の舞台となった寺田屋など、旧跡もたくさんあります。また、同地の御香水(ごこうすい)が日本名水100選に選ばれるなど、名水の地としても知られています。そして、一帯には酒蔵が建ち並び、その古い町並みをぬって流れる濠川(ほりかわ)は、訪れた人を和ませます。けれども、伏見を訪れる観光客はそう多くはありません。京都では、これほどの観光資源を持つ伏見ですら埋没してしまうのです。
今、伏見では京都市の中心市街地活性化基本計画に沿って観光開発が進められています。正確に言えば商業等の活性化のために観光客を誘致しようとしています。その推進母体が株式会社伏見夢工房で観光担当部長をつとめる永山惠一郎さんに、これまでの活動と今後の展望をお聞きしました。
「この会社の活動には前段があります。10年前に、伏見開港400年祭が開催された時に『酒蔵有効利用コンペ』を実施し、十石舟での遊覧の運行を始めました。伏見のタウン誌の発行に携わってきて、豊富な観光資源をうまく束ねれば観光客を呼べると確信していました。そして、酒蔵など地場企業の若旦那を巻き込みました。彼らが表舞台で活躍する場が少なすぎると常々感じていたからです。
そのためのコンペであり十石舟の運行です。彼らを動かすために、最初から具体的なものに落すつもりでした。
株式会社伏見夢工房は2002年に地元の企業などが出資して生まれたまちづくり会社です。十石舟遊覧を運行するほか、月桂冠さんの旧本社屋をお借りして『伏見夢百衆』という喫茶店兼観光案内所を営業しています。ここでは伏見の酒がa 酒できます。また、先日から国土交通省と連携でジュニア河川レンジャー制度を始めました。伏見の小学生に十石舟に乗ってもらい、環境に関するお話や河川の清掃活動を体験した子供をジュニア河川レンジャーに認定します。河川の環境改善の意識を高めることが狙いです」
酒蔵の町並みが残る伏見の南浜界隈 これらの事業からの収益は多くなく、同社の経営基盤は磐石とは言えません。それでも停滞しないのは、永山さんの奉仕的な活動によるところが大きいように見えます。この解決は同社の大きな課題と言えましょう。
活動面での課題についてうかがうと永山さんは、「飲食施設や資料館など一般客を迎える施設を持つ酒蔵が増えてきたことは、とても心強いことです。観光では『見る・食べる(飲む)・買う』という三つの要素の充実が欠かせません。どんどん連携していきたい。それから住民に景観保全の意識が浸透してきたことも、観光地としての魅力を高めていくと思います。
もっとも遅れているのが地元の中小小売業の活性化です。日用品を売っている店では、まだ、観光客が増えたことで経済的な恩恵があったと実感されていません。それで彼らの参加意識はなかなか高まらない。機会をつくって巻き込んでいくしかないのだと思いますし、そうしないと経験豊富な人材が育ってこないですね」と答えました。
伏見は酒蔵の密度の高さと趣のある町並みが残っているという点で、全国でトップクラスの地域です。酒蔵を核としたまちの観光振興のこれからに期待したいと思います。
(伏見夢工房/tel 075・623・1030 http://www.kyoto-fushimi.com/index.html


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