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阿蘇の名水生まれの酒
熊本は水がよいことで知られる。環境省「名水百選」で、ひとつの県から最多の四カ所も選ばれているのはそれを示す一端だ。世界最大級のカルデラ火山「阿蘇」の懐で磨かれた伏流水は、人口60万の熊本市の水をすべてまかうほど豊か。
今回は名水の地「熊本の酒」を作家の光岡明氏と訪ねる。


清酒が造れなかった熊本
「かつて熊本に清酒はなかった」と言うと、「焼酎だったんですね」と返ってきそうだが、焼酎でもなく、飲まれたのはもっぱら赤酒であった。焼酎は人吉球磨(相良藩)で飲まれていたにすぎない。
温暖な気候は豊かな実りと暮らしやすさを約束する。けれどもそれは酒づくりには大きなリスクとなる。高い気温が発酵の管理を難しくし、最悪の場合、酒にならずに腐ってしまう。赤酒は、そのリスクを下げるために製造途中で醪に灰汁を加える。できる酒は澄んではいるが味醂のようにとろりと甘い。
明治になって清酒を造り、そればかり飲む地域との交流が活発になると、赤酒が相当異質に見えてくる。そして、酒造のメカニズムを科学によって解き明かし新技術を開発する気運の高まりも手伝って、熊本は県内での良質な清酒造りに並々ならない情熱を傾けるようになる。熱意ある地域集団に、優れた人材が居ると、技術はしっかり根づく。それを阿蘇の恵みである「名水」がやさしく育み、やがて熊本は銘酒の産地として全国にその名をとどろかせるようになる。

名水から生まれる柔らかな味のビール
…サントリー九州熊本工場

熊本に住む作家の光岡明氏は「熊本の酒を愛する会」の事務局長を務める。清酒をこよなく愛する県内の有名人が集まって、年に数回、100名ほどでおいしい酒をいただく会だ。しばらく開催しないと「次はいつ?」と問合せが相次ぐほどの人気だそうで、すでに開催は30回を超え、一五年も続いているという。昨春、『酒と水の話- マザーウォーター』(弊社編・紀伊國屋書店刊)にご執筆いただいたご縁で、今回、熊本の酒の案内役をお引き受けいただいた。
まず、最初に訪ねるのはサントリー九州熊本工場。国内最新鋭のビール工場、世界でも最高水準の工場だ。これを見逃す手はないと、大の日本酒党という光岡氏を説き伏せ、わがままを言って「とりあえずビール」とさせていただく。
熊本市の交通センターから出る無料のシャトルバスで同工場に向かう(要電話予約)。陽光がさんさんと降り注ぐ見学ロビーで受付を済ませ、さっそく工場を案内していただく。見学コースの最初は水の話。壁に据え付けられた熊本一帯の立体模型がスクリーンに早や変わりして、良質の地下水が大量に生まれるメカニズ激しく降った雨が保水力のある火山岩層に蓄えられ、ゆっくりと地下を進んでいく映像は圧巻である。
その後、ビールの製造工程に沿って厳選された原材料や最新の設備が説明される。目を引くのは徹底した衛生管理と自動化。床は雑菌が繁殖しにくいようにドライにコントロールされている。あちこちにオレンジや紫のシートやライトが見えるのは、小さな虫を寄せ付けないためだ。どの工程でも自動化が進んでおり、現場には数えるほどしか人がいない。

見学を終え、松元信也工場長にお話をうかがう。工場用地選びではビールづくりに最適な地下水が豊富なことが決め手となったこと、貴重な地下水の使用は必要最小限にとどめ環境負荷を軽減していること、「天然水の森」として涵養林の育林・保持に力を注いでいること等を話された。
「水の良し悪しがビールの味わいに与える影響は、どれくらいなんですか」と光岡氏が問う。松元工場長は、ビールには「水」「ホップ」「麦芽」「酵母」という四つの魂があると言い、味わいはそのバランスで決まるので一概には言えないとしたうえで、「それでもこの工場のモルツが、他の工場のものよりも柔らかい喉越しになるのは水の影響でしょう。もちろんモルツの味わいの範囲内でのわずかな差ですが」と答えた。その言葉のとおり、できたてのモルツはホップの香りが豊かで、柔らかな味わいであった。7月のオープンからわずか四カ月で来場者が10万人を超えたその人気の秘密は、この味わいと溢れんばかりのホスピタリティにあるのだろう。

写真


熊本の米と水で仕込む
…千代の園酒造
ビールで喉を湿したあと、千代の園酒造(山鹿市)へと向かう。山鹿は阿蘇に発する菊池川沿いにあり、その水運を利用した交通の要衝として繁栄した。また温泉を抱え、古くからの保養地としての顔をもつ。現在は街並みの保存に取り組み、八千代座や灯籠まつりなどを核に観光振興が盛んだ。ちなみに八千代座は明治44年に、旦那衆と呼ばれる山鹿の実業家たちの手によってつくられた芝居小屋で、昭和六三年に国指定重要文化財に指定された。
さっそく工場を製造担当の志垣道廣さんに案内していただく。志垣さんは千代の園酒造の社員で一年を通じて勤務する製造技術者。古い木造の蔵では、素朴な酒造設備を人が直接コントロールしていた。たとえば吟醸酒は、すべて麹蓋と呼ばれる小さな箱を用いて手作業で麹をつくり、昔ながらの槽か、醪を詰めた酒袋を吊り下げて搾る。新酒生酒のびん詰めも手作業で、最新鋭のビール工場を見た後ではそのあまりの違いに驚くばかりだ。ここにあるのは機械ではなく道具、工場というよりも工房という印象である。
この千代の園酒造がこだわりをもっている米が「熊本神力」だ。熊本県の独自の米品種。粒の大きさは山田錦と一般の飯米の中間くらい、そのうえ割れやすいため精白歩合は55%ほどまでしかできない。けれども麹をつくりやすく、独特の香りと色あいの酒になる。味わいは夏を越えるとぐんと増してくるそうで、ある完成度をもった個性的な酒がつくれる。本田雅晴社長は「『熊本神力』の酒をテイスティングしたアメリカの方が『アーシィ(大地の香りがする)』と表現しました。誉め言葉なのかどうか、よくわからずにいますが、独特の味わいがあることは魅力です」と言う。この米を阿蘇の恵み菊池川水系の地下水で仕込む。

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