シードル街道をゆく ノルマンディ
2026/04/30(木)
シードルはリンゴから造られるワインです。寒冷でぶどう栽培に適さないフランス北部では古くから盛んにつくられてきました。近年は日本でもシードルを手掛けるワイナリーが増え、数個■ずつ広まっています。本場ノルマンディーのシードル街道を旅してみましょう。

シードルづくりが盛んなノルマンディー&ブルターニュ地方
シードルはノルマンディの“地酒”
蒸留器はみんなでシェア
リンゴでつくるワインであるシードルは、最近、日本でも人気が高まっています。もともとはフランス北西部のノルマンディ地方やブルターニュ地方、英国(サイダー)で広く飲まれていました。スペイン(シドラ)やドイツ(アプフェル・ヴァイン)にもあり、寒冷でブドウ栽培に適さずリンゴをつくる地方に広く見られます。
ブルターニュ地方を代表する観光地である世界遺産のモン・サン・ミッシェルには日本からも多くの観光客が訪れます。行く機会があれば、ぜひ周辺の道路沿いに並ぶレストランやショップにシードルを探してみください。看板を掲げたお店を簡単に見つけられるでしょう。アルコール度数は3~8%とビール並みに低く、ワインよりも安価なので、地元の人はランチで気軽にシードルを楽しみます。特産のお土産としても手頃なので、観光地には専門店がいくつもあり、シードル関連の仕事が少なくないことがわかります。
シードルのワインツーリズムで注目されているのは、なんと言ってもノルマンディ地方のシードル街道です。中心都市のカーンとリジュウの間にある一帯には、小さなシードルリー(シードル生産者)が点在し、車で走ると街道沿いに次々に現れます。最もにぎわうのはリンゴの花が咲き乱れる春(5月)、そして収穫祭が開かれる秋です(10月)。今回の訪問は残念ながらこれらの時期に合わせられませんでしたが、その魅力の一端を報告します。
最初に目指したのは「フランスで最も美しい村」にも認定されているブーヴロン・アン・オージュです。人口200人ほどの小さな村でノルマンディーの伝統的な家屋が多く残っています。「最も美しい村」はフランスの農村の伝統的な美しい景観・文化を残し、そこの食材を活用したおいしい料理で地域をの活性化を狙った運動です。行政コスト削減のための町村合併に異を唱えて1982年にスタートしました。現在は156村が指定されています。日本でも2005年にNPO法人「日本で最も美しい村」が発足しています。
ブーヴロン・アン・オージュは、日本でも見られる古い宿場町や景観保存に取り組む地域を髣髴とさせます。観光化も進んでおり、店舗は手づくり雑貨やお土産品を扱う店と飲食店が目立ちます。訪れる人は昔を懐かしむような比較的年齢の高い層が多いようでした。
この町の2軒のシードルリーはよく似たつくりす。幅15mはあろうかという横長の平屋は広い前庭をもっており、薄暗い屋内には試飲カウンターを備えたショップがあります。建物の裏に広い果樹園が広がり、牛が草を食んでいました。納屋には発酵槽と思われる大きな桶と、リンゴを潰す破砕機が無造作に置かれています。そう、ここでは農家が冬場に自家用にシードルを仕込み、さらに蒸留してカルヴァドスをつくったのです。
現在は原産地呼称し、上質を目指し始めましたが、まだそうした取り組みは日が浅いのです。洗練の極とも言えるワイン文化をもつフランスで、カジュアルな酒と位置付けられ、飲み手もつくり手もシードルに洗練を考えなかったのでしょう。シードル街道のほとんどのシードルリーは果樹園を営む農家、立派な醸造設備のある酒造家の印象はありません。
印象派の画家がスケッチの題材にとったことでも知られる港町オンフルール。この近くに「マノワ・アプルヴァル」はあります。内外でも評価の高い中規模のシードルリーです。
日曜日の昼過ぎに訪ねるとショップは昼休み、営業まで30分ほどありました。果樹園を散策していると、女性がサクランボを摘んでいます。ショップのスタッフで「もう少し待ってくださいね」と微笑みます。
外から醸造棟、かやぶきの屋根を吹替え中の貯蔵庫を眺めていてびっくり、屋外に大きなタイヤのついた蒸留器、トレーラーでそのまま引いていけるようになっています。この規模のシードルリーでも蒸留器は保有しておらず、専門業者からレンタルしているのでしょうか。ここに蒸留器がある間に、近隣のシードルリーもここで蒸留していくそう。小規模なシードルリーが蒸留器を使うのは年に数回です。シェアする仕組みはあって当然、そう言えば北イタリアの村でも、農家が蒸留器をシェアしてグラッパをつくっていました。
ショップのある建物にはセミナールームが設けられています。まだ上級品の認知が低いシードルやカルヴァドスのプレステージを高めようという意欲が伝わってきます。カウンターではもぎたてのサクランボを摘まみながら、自慢のシードル、ペリー(洋梨のシードル)、40年ものの特別なカルヴァドスなども試させてもらいました。素朴な酒から洗練された酒への道筋をたどるような気分で、じっくりと味わうことができました。

<上段左>カジュアルなビストロの前にあったシードルの看板
<上段右>ランチタイムにシードル楽しむ人の姿もちらほら
<下段左>シードルの原産地呼称「カンブルメール(cambremer)」を示すポスター
<下段右>「フランスの最も美しい村」に指定されているブーヴロン・アン・オージュ

<上段左>シードルリーの多くは農家でもある。ノルマンディーでは横長で大きな屋根が特徴
<上段右>シードルリーは建屋に試飲カウンターのあるショップが設けていることが多い
<下段左>ショップに飾られていた古い蒸留器。リンゴの発酵液を蒸留しカルヴァドスを作った名残だろう
<下段右>マノワ・アプルヴァルのゲストハウス。緑のツタに覆われていた

<上段左>どこにでも牽いていける移動式の蒸留器
<上段右>ゲストハウスのホールでは収穫祭、料理や菓子づくりセミナー、シードルづくり体験など多彩なプログラムがおこなわれる
<下段左>左の2本はリンゴの栽培地と醸造年が異なるシードル。右は洋ナシでつくるぷぱーくリングワイン「ポワレ」
<下段右>熟成年数や樽材の異なるカルヴァドスを飲み比べ