ワインの最新動向をゲット?
2026/05/29(金)
Pro Wine Tokyo 2026レポート
Pro Wineは1994年に始まったドイツ発の世界最大級のワイン展示会です。日本開催は今回で3回目。中東欧地域やウルグアイなど世界が注目し始めたワイン産地にフォーカスしたり、日本ワインや自然派ワインのセミナーを用意したりと、ワインの最新動向を掴むための企画が充実していました。

セルビアのワインとラキア文化
たくさんのセミナーがあるなかで最初に向かったのは「セルビアワインと蒸溜酒の発見(講師:沢樹舞さん)」というセミナーです。セルビアはヨーロッパの東南部のバルカン半島にあり、冷戦期にはスロベニアやクロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナらとユーゴスラビアを形成していました。首都はベオグラードです。

地図を見るとわかりますがセルビアはイタリア北中部、フランス南部、スペインとほぼ同じ緯度で、ブドウ栽培に適した気候であることがうかがわれます。北で接するハンガリー、東側のルーマニアとブルガリアもワインづくりが盛んです。ただ、冷戦が終わる1991年ごろまでは旧ソ連の影響で、ワインは質よりも量産優先でした。多くの地域がそうであったようにソ連で好まれる甘いワインに仕上げていただろうと想像します。
しかし、もともとワインづくりに2000年以上の歴史を持つ地域です。セルビアとして独立してからの30年間で海外のワイン市場と交流が広がり、ワインはどんどん洗練されていきました。ワインづくりの基礎がしっかりしたので、新しい技術や設備を容易に自分のものにできたのでしょう。

セルビアを代表するブドウはプロクパッツ種です。この地域の最古の土着品種でエレガントな味わいから「セルビアのピノ・ノワール」と呼ばれているのだとか。6点用意されたテイスティングでも、半分はこの品種でした。収穫時期は11月と遅く、木樽で12か月熟成し、瓶詰めした後でさらに1年寝かせるものが多いそうです。味わいは説明のとおり上品で輪郭がしっかり出ていました。日本でもこの品種からセルビアワインは広がるのではないでしょうか。

<左>奥の3つがプロクパッツ種のワイン。右手前がフルーツブランでのラキア
<右>セルビアのワイン生産者たちと講師を務めた沢木舞さん(前列右)
もうひとつ強烈な印象を残したのはフルーツブランデーのラキアです。セルビアなど中欧では家庭で留酒を作りもてなす文化が根付いています。プラム、洋ナシ、ベリー、チェリーなど一度にたくさんとれるフルーツはドライフルーツやジャムなどに加工して保存します。そのひとつがこれらを原料にしたフルーツブランデーです。今はだいぶ少なくなったと聞きますが、村には共同の蒸留所があり、誰でも好きな時にブランデーを作れたそうです。ラキアは、長い間、人々の暮らしに欠かせない酒として飲み継がれ、プラムでつくるものは特にシュリヴォヴィツァ(Šljivovica)と呼ばれ、その酒と生活文化は、ユネスコの無形文化遺産に登録されています。

<左>テイスティングの最後にラキアの生産者が登壇してあいさつ
<右>展示ブースには若いものや熟成したものなど、さまざまなラキアが並んでいた
次の聴講したのは「ネクストブルゴーニュ ― 次に語られる産地はどこだ」と題したセミナーで、講師は矢田部 匡且(やたべ・まさかつ/東京エディション虎ノ門ヘッドソムリエ)さんです。
ブルゴーニュはボルドーと並ぶフランスのもっとも有名なワイン産地です。ブルゴーニュを特徴づけるのは、細かく分かれ、格付けされた畑。そこから生まれるワインは、単一のブドウ品種だけを用い、毎年変わる気候を享受しつつ、その畑ならではの味わいを追求します。ストイックなワイン造りの思想とエレガントな味わいは、ワイン愛好家を魅了してやみませんが、生産量が限られているため、飲みたい人が増えると価格は高騰します。いまや、一般庶民には手の届かなくなってしまった観すらありますが、一方で世界中にブルゴーニュ的なワインを目指す造り手がいます。

このセミナーは人気が高く、抽選で選ばれた方だけが聴講した
矢田部さんがこのセミナーで用意したワインは4つです。ひとつめは南アフリカのアタラクシア・ピノノワール2022年、プルミエクリュクラスのワインに匹敵すると紹介しました。続いてはアメリカ・オレゴンのドメーヌセリーヌのエヴァンスタッドリザーヴ2021年で、グランクリュと比べて欲しいと。3つ目は農薬や肥料を極力使わないスタイルで中国・寧夏回族自治区のシルバーハイツ家園ピノ・ノワール2022年です。中国内陸部は20年以上前から国を挙げて本格的なワイン産地化する取り組みが進められてきましたが、このワインはそのひとつの成果かもしれません。そして4つ目は日本ワインでした。北海道・余市のキャメルファームワイナリー ピノ・ノワール プライベート・リザーヴ2022です。余市と隣接する二木は日本を代表する冷涼なワイン産地で、複数のワイナリーがピノ・ノワールに取り組んでいます。
ブルゴーニュワインが高騰する中で、当初は代替品として他の産地のワインに目が向けられ始めたのだろうと想像しますが、これだけ魅力的なワインが出てくると、代替品という位置づけをとうに超えて新しいワイン文化として成立しているように見えてきます。矢田部さんはこうした様相を、「ブルゴーニュはもはやひとつの地域ではなく、世界中の冷涼ワイン産地で語られるワイン造りの価値基準」と評しました。的を射た評価と受け止める方は少なくないのではないでしょうか。

<左>中国のワイン産地マップ。青線で囲んだところが寧夏回族自治区
<右>講師の矢田部氏はネクストブルゴーニュを「思想」と表現する
この日、最後に聴講したのは長野県のワインのセミナーです。講師の花岡純也さんは信州ワインバレー構想推進協議会副会長で、一昨年末まで松本市内で長野ワイン専門の「ワヰン酒場かもしや」を経営していました。
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講師の花岡純也さんは早くから長野ワインのアンバサダーを自任し、多方面からその活動が評価されて信州ワインバレー構想の推進役の一人となった
ワイナリー数が着々と増えている長野県は、近くワイナリー数で山梨県を上回り国内最多になると見られています。温暖化が既存のワイン産地に大きな影響を与えるなか、長野県は標高が高く冷涼な気候の畑を確保しやすい一方、凍害のリスクが下がりました。行政も果樹栽培農家の有力な後継としてワイナリー開業を支援し、県内にはワイナリー経営者を育成する学校も複数誕生しました。加えて首都圏からもアクセスしやすいためワイナリー開業希望者が全国から集まっています。
こうした動きを早くから見てきた花岡さんは、ワイナリーをワイン生産者と見るだけでなく面でとらえ、交通や飲食サービスの事業者などと連携した観光開発の重要性を指摘しました。キャッチフレーズは「長野ワインに旅をさせるな」です。ビン詰め商品を県外に売るよりも、長野に来てもらって長野の風土を感じながらワインを楽しんでもらおうという意図でしょう。ただ、小規模なワイナリーは栽培や販売管理で手一杯、繁忙期には観光対応を後回しにせざるを得ません。それを補う仕組みとして外部にワインツーリズムをサポートするガイドを育成し、ワイナリーの負担を軽減、他の産業とともに観光コンテンツの開発に取り組む事例を紹介しながら、長野のワインツーリズムを展望しました。
また、今後の課題としてワイナリーの後継者問題を指摘しました。リタイア後にワイナリーを開業する方は珍しくありませんが、60歳で起業して80歳まで働いたとしても在勤期間は20年間です。ワイナリー開業が活発になり始めた2010年ごろに始めた方は、そろそろ後期高齢者です。ブドウの木の寿命はもっとずっと長く、ワイナリーを次世代にどのように継いでいくかはこれから大きなテーマになります。

試飲サンプルはアルプスワイン(塩尻)「ミュゼドヴァン白」と信州ワインバレー構想を提案した玉村豊男さんのヴィラデストワイナリー(東御)のワイン