スーパー酒専門店の誕生-10年後を展望する
2026/06/03(水)
10年後を展望する
この30年間で酒類流通は変貌を遂げました。主要チャネルは個人酒販店からチェーン展開する量販店、あるいはコンビニエンスストア(CVS)に変わり、生き残った個人酒販店の多くは酒専門店と業務用酒販店です。今回は小売業の大きな変化を踏まえたうえで、コロナ禍を経た酒類消費を取り巻く環境の変化を整理し、10年後の酒専門店像を探ります。

食品業界を再編したSMとCVS
はじめに国内の食品流通の歴史をおさらいします。ほとんどが零細な個人店ばかりだった小売業で大規模化が始まったのは1950年代中頃です。アメリカで生まれたチェーンストア理論をもとにスーパーマーケット(SM)が登場し、各地で多店舗化が進みます。ダイエーやイトーヨーカドーはその草分けで、彼らが創業し急成長していた1962年には林周二『流通革命』(中公新書)がベストセラーとなりました。それまでメーカーがもっていた価格決定権を、大規模小売業者が奪い取る構図を「革命」と評して話題を呼びます。
成長する企業は成長の好循環をもっていて、それを回し続けることで卓越した企業になるとし、「弾み車の法則」と呼んだのは『ビジョナリーカンパニー』などを著したジム・コリンズ氏です。これを日本で誕生した当時のSMについて考えてみました(図表1)。

青果店や鮮魚店など業種小売店ばかりだった時代に、一か所ですべての食品が揃い、かつ安価な店を出店したことで、客数が増えて売上は急増します。販売量が大きくなるとさらなる大量購買(仕入れ)が可能となり、より安価に販売できるようになります。メーカーや卸は安売りされることを嫌って取引を拒みますが、SMが成長するにつれて無視できなくなり、最終的には積極的に取引するようになります。こうした関係性をもとにプライベートブランド(以下PB)の開発力が高まり、収益性も向上するというサイクルを回し続けた結果、SMは広域に多店舗展開する者が次々に登場します。既存の配送エリア外の店舗に商品を届けなければならなくなった卸は再編を進めざるを得ず、メーカーは限られた棚に陳列場所を確保する競争が始まり、上位集中が進みます。
続く小売業の変革はCVSの成長でしょう。1970年代の半ばに大手SMがプロトタイプを出店し、物販に限らずさまざまなサービスを取り込んで今日も隆盛を続けています。CVSの弾み車のSMとの違いは、①ディスカウントではなく利便性の向上に全力を傾けた点、②そのために販売データをもとに商品数を最大化しつつ店頭在庫を最小限にする情報システムとロジスティックスを確立した点です。そこにチケット販売や公共料金決済など多彩な情報サービスを組み入れてきました。物販面ではPBの開発力の強さも特筆されます。上質な弁当や総菜をアウトパック(店内では調理加工しない)で独自開発し続けた結果、PBの品質評価は高まり売上構成比も上昇して生産性が高まりました
ネットショップの成長―ワンクリック&デリバリー
日本でインターネットが本格的に普及するのは2000年頃からです。以来、ネットショッピングは大きな成長を遂げました。楽天が、小規模な店舗もネット上にショップを容易に開くことができる楽天市場を開設したのは1997年でした。
ユーザーにとってインターネットショッピングの魅力は、ワンクリックで商品が届くこと、実店舗では探しにくいニッチ商品を見つけやすいこと、最安値の店を探せることでしょう。楽天市場はこの利点を生かして、集客力を高め、出店を増やし(店揃えの充実)、購買データをもとにプロモーションの精度を高め、旅行・金融・通信などサービスを複合化する弾み車を回し続けました(図表2)。酒類販売ではワイン販売で先行し、現在ではさまざまな酒類を取り扱うショップが並び、小さくない売上をあげています。今後も成長が予想され、酒類の重要な販売チャネルになることは疑いありません。
課題は出展するショップ全体のサービスレベルの引上げです。競合するアマゾンが自社の物流システムで販売も直接おこなうのに対して、楽天市場は取引の場を提供するだけで販売や物流は個々のショップに任されます。そのためショップのサービスクオリティがばらつき、評価を下げるリスクがあります。
また、出店にかかる費用や販促費も小さくないため、利益率の低い商品を販売するショップを充実させにくいなどの課題を抱えています。それでも楽天市場やヤフーショッピングのようなネットショッピングモールは、グループ全体で複合的なサービスを提供し、通貨として使えるポイントでユーザーを囲い込み成長を続けると考えられます。

鎖国型の和酒専門店システム
SMがリードした流通革命は、30年近く遅れて酒類市場で起こりました。酒類や医薬品などの規制業種は小売業の大規模化が制限されていましたが、規制が緩和されて1990年代から一気に進みます。既存の個人商店が退出していくなかで、生き残りをかけた酒販店が酒専門店化を図ります。そして独特の和酒専門店システムが生まれます。
これは価格競争の拡大と小売酒販免許の自由化と一線を画し、限られたメンバーだけで成長を目指す、いわば鎖国型のシステムです。メーカーは小売店と特約を結び、品質管理を徹底し、値引き販売をせず主力商品として販売することを依頼し、一定の地域の市場を任せます。1980年代に清酒で誕生し酒類販売の規制緩和が進んだ1990年代に広がりました。かつて家電や化粧品で見られたメーカー系列店制度のように、小売店がひとつのメーカーの商品だけを取り扱うわけではなく、複数のメーカーと特約し自由に販売します。
その成長パターン、弾み車は、ニッチな人気商品を独占的に扱うことでそうした商品を求めるこだわり層を集客するところから始まります(図表3)。人気商品とは1990年代では「久保田」や「越乃寒梅」、最近では「獺祭」や「十四代」などです。これらを求めて多くのこだわり層が店を訪れます。特約店は人気銘柄とともに成長し、業容を拡大していきます。こだわり層がリピートして定着し、さまざまな酒を試す彼らによって、無名の商品の販売効率も上がっていきます。

インターネットのない時代にニッチな商品を求める層と出会うことは容易ではありませんでした。こうした客が集まっている和酒専門店は、ニッチな商品を展開するメーカーや卸にとって重要な販売拠点です。好循環が始まり、さまざまな提案が舞い込むようになります。
そしてニッチ商品を採りあげるメディアが情報源として店に近づきます。弾み車を回す力の源泉は、ニッチな人気商品をつくり続けることです。こだわり層に情報を伝えられる専門メディアとの協力関係は非常に重要なものになりました。商品が専門メディアで紹介され反応がよいと、次は夕刊紙やスポーツ紙などの大衆メディアが採りあげ、一般メディアに登場するようになれば大ヒット商品です。
もうひとつ重要になるのが、そうした商品を実際に試す場となる銘酒酒場です。グラス売りでさまざまな酒を試せる銘酒酒場は、ニッチな商品とユーザーの最初の出会いの場となり、和酒専門店と専門メディアと連動して動くことで人気商品が次々に生みだされていきます。
次々にヒット商品を生み出すことを目指すこのシステムは、無名の商品の市場導入には力を発揮しますが、一定の規模以上の成長を妨げるように働く矛盾を内包しています。
典型的には商品が特約店網以外で販売される転売(横流し)です。商品がヒットし容易に売れるようになると、このシステムで流通している商品もSMやディスカウントストアなどに並ぶようになります。このほとんどはシステムメンバーの特約店が転売したものです。特約店は料飲店を除いてエンドユーザーに販売しますが、人気が出て引く手あまたとなった商品は、同業者や買い取り専門業者に転売する者が現れます。デリケートな清酒は店頭での保管状態が悪いと劣化しやすく品質面での問題が生じます。さらにメーカーの希望小売価格とかけ離れた価格で販売されます。高品位ブランドを目指すメーカーは、自身でコントロールできない売場に商品が並ぶことを嫌います。そこで転売を止めるためにメーカーが商品の供給を制限すると、今度は抱き合わせ販売という別の問題が発生します。こうした状況に陥るとメーカーと特約店の間に不信感が芽生え、特約店の販売意欲は低下し、和酒専門店システムの活用を見直さなければならなくなります。
また、業務用の販売割合が高まり、料飲店への依存度が上がりすぎる点も成長を阻みます。人気商品を生み出すために銘酒酒場がトライアルの場として大きな役割を果たすと述べましたが、安定的な販売が見込める料飲店への卸売りが大きくなると、小売店は一般向けへの販売を怠りがちになります。酒場で試して気に入ったら家庭で飲んだり、贈ったりする。こうした第2のステップとなる需要開拓がおろそかになり、ブランドの成長は止まります。料飲店では手に入らない人気商品になりますが、自家消費やギフトなどの一般市場への供給者がわずかでマニア受けするニッチ商品にとどまります。こうして見ると、転売も業務用依存も根っこは同じことがわかります。人は易きに流れるのです。和酒専門店システムが次に進むためには、この点を解決しなければなりません。
コスパ需要からの脱却
さてここでコロナ禍後に酒類業界がどのように変わるか考えてみましょう(図表4)。コロナ禍が酒類業界に与えた影響は、料飲店での酒類の提供制限とリモート化です。前者は不要な飲み会が多かったことを実感させ、料飲店はテイクアウトなど売り方の多様化の必要性を知りました。後者は在宅時間を延ばしたほか人々にデリバリーサービスの利便性を体験させました。 これらは今も続いています。リモートワークの定着で都心の中間人口は減少し、惰性の飲み会はなくなって、魅力のない料飲店は淘汰され業務用市場は縮小します。
業務用市場の縮小は酒類業界をどこに向かわせるのでしょうか。まず、酒類メーカーは海外進出に拍車をかけます。特にコロナ禍でも輸出を伸ばしたメーカーは売上の半分を海外で稼ぐことを考えるでしょう。同時に国内の商品ラインナップ刷新の必要性を感じます。なぜならば輸出では国内市場よりも高単価なものが売れるからです。製造量が同じでも高単価商品の割合が高まり増収増益となることを経験して、国内での商品単価のアップが成長の鍵であると確信するのです。

東京都心の酒専門店を歩いてみました。清酒の中心価格帯は720mlで1500円~2000円なのに対して、ワインは2倍の3000円~4000円です。この価格差を埋めることが、これから和酒専門店システムにとって一番の課題になるでしょう。分厚い大衆酒市場が全国津々浦々に広がる和酒市場は、大量に安定的に良質なものを製造する大規模メーカーの商品と、趣味的に楽しまれる高品位商品の棲み分けが十分ではありません。手間暇をかけて小さなバッチで仕込んだ本来は高価で販売されるべき商品が、大衆酒の価格帯に近いところにあり、これまではコスパのよい酒と支持されてきました。けれどもリーズナブルでおいしい酒をつくる技術は確立されており、この競争は大規模メーカーが優位です。コスパを求める人はこうした酒を選び、一般的なSMやCVSはこのニーズを満たし、フルボトルで1500円以下の清酒やワインは彼らの商材になるでしょう。メーカーは手間暇をかけただけの価値を価格に反映させられるブランドをつくれるかどうか、和酒専門店はその取り組みをエンドユーザーに伝え購入してもらえる店になれるかどうかが、将来を大きく左右します。
スーパー酒専門店の誕生
こうした変化に適応するために酒専門店は機能を高度化させます。和酒専門店システムのメンバーからも出てくるでしょうし、ワインやビールの専門店からも出てくるでしょう。これを仮にスーパー酒専門店と呼んでおきます。特徴として料飲機能を備えていることがあげられます。料飲機能とは、料飲店に任せていた高品位商品とお客のファーストタッチの場を自ら運営するという意味です。酒専門店にとって体験機会をつくれることは極めて重要ですから、店舗内に限定する必要はなく、駅前に直営の酒場を設けたり、キッチンカーでイベント会場に出かけて行ったりする展開もあります。
もうひとつは自店のファンコミュニティを持っていることです。リアルな酒サークルでもSNSを使ったバーチャルな集まりでも構いません。常に酒を楽しむ情報が飛び交う場です。周りに常にファンがいることで、店に賑わいや動いている感が生まれます。入った瞬間に活気を感じる店は人を呼びます。
この2つをベースにスーパー酒専門店の弾み車を考えてみました。料飲機能とファンコミュニティをしっかり回していくと、情報感度の高いインフルエンサーに必ず出会います。個人が発信力を持つ時代はますます進むのです。iPhoneが日本で発売されたのは2008年でした。物心ついたときからスマホを触って育った世代が、まもなく酒を飲み始めます。どんな情報をどう発信するようになるのか楽しみではありませんか?

その次に必要になるのは広く一般に向けた発信力です。駅に近接した立地や集客力のある商業施設に出店できるかどうかが、和酒専門店がスーパー酒専門店になれるかどうかを分けるでしょう。そこまでできなくとも酒にあまり関心を向けていない人とも接点を作ります。ノンアルコールドリンクやフードを手掛かりにしたり、ハロウィンパレードやコンサートを開催したりするなどアイデアと実行力が必要です。
こうしたことを一つ一つ進めながら店の中心価格帯を、清酒・ワインで2000円台にもっていきます。それよりも安価なものは「お値打ち3000円セット」のようなバンドル販売で、商品単価を引き上げます。SMやCVSと中心価格帯を変えて棲み分け、酒専門店としての評価を確立する。スーパー酒専門店の時代が始まっています。